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大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)7904号 判決

原告

石川急送株式会社

ほか二名

被告

黒谷株式会社

ほか一名

主文

一、被告らは各自、

原告石川急送株式会社に対し 金六八三、三一九円、

原告加地春に対し 金一二六、〇八六円、

原告山之内日出豊に対し 金三七、五八九円、

およびこれらに対する昭和四四年一月一五日から右完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告らのその余の請求はいずれも棄却する。

三、訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの、その余を被告らの負担とする。

四、この判決は一項にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告ら

被告らは各自

原告会社に対し 金二、三四一、二五四円、

原告加地に対し 金三一六、八六一円、

原告山之内に対し 金九一、四五九円、

およびこれらに対する昭和四四年一月一五日(訴状送達の翌日)から右完済まで年五分の割合による金員を支払え。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二、被告ら

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二、当事者の主張

一、原告ら、請求原因

(一)  本件事故の発生

日時 昭和四三年一〇月一二日午前四時五〇分ごろ

場所 石川県小松市矢田野町、国道八号線上、

事故車 大型貨物自動車

運転者 被告向井

態様 原告加地が原告会社所有の大型貨物自動車(以下原告車という)を運転し、原告山之内を同乗させて時速約四〇キロメートルで南から北へ進行中、事故車が後方から追突した。

受傷 原告加地、左大腿部打撲、外傷性頸部症候群、原告山之内、左肩打撲、外傷性頸部症候群、

物損 原告車大破

(二)  帰責事由

1 被告向井は前方を注意せず、高速で適当な車間距離を取らず、原告車に追従し、かつハンドル、ブレーキ操作の不適当なため本件事故を惹起した。

2 被告会社は事故車を所有して、これを自己のために運行していたもので、被告向井は被告会社に雇われ、その業務中に本件事故を発生させた。

(三)  損害

原告会社関係 総計金二、三四一、二五四円

1 原告車買替による損害 金九八一、九八〇円

新車価格二八五万円、取得税七三、九八〇円から原告車の償却費四二、〇〇〇円、(購入後一二日間使用したのみ)下取価格一九〇万円控除。

2 休車損 金九八万円

代車購入まで四九日間を要し、一日二万円の割合による。

3 その他車両関係 合計金五〇、六一〇円

シート、ロープ破損代 金六、四〇〇円

電話代 金四四、二一〇円

4 事故直後のあと始末費合計 金六一、三一九円

原告車の代車代 金四五、〇〇〇円

積荷の積替費 金六、〇〇〇円

出張した係員費用 金一〇、三一九円

(旅費、日当、電話代、食事代、車代)

5 示談交渉費 合計金六七、三四五円

大阪本社係員分 金三二、七三〇円

(旅費、宿泊費、日当、電話代等)

富山営業所係員分 金三四、六一五円

(日当、電話代)

6 弁護士費用 金二〇万円

原告加地関係

1 休業損 金一三二、四四〇円

原告加地は昭和四三年一〇月一二日から同年一一月一五日まで入院し、その後同月末日まで通院して治療をうけた。

職業、長距離輸送トラツク運転手

休業期間、四三日間(休日を除く実働予定日数)

事故前三か月間平均日収、 金三、〇八〇円

三〇八〇円×四三=一三二、四四〇円

2 減収損 金一六、五〇〇円

前記治療終了後約一五日間は直ちに平常勤務につくこと、つまり長距離輸送を行う以上通常当然である残業、夜間の勤務をなしえず、これらの手当日額一、一〇〇円をうけることができなかつたので、一、一〇〇×一五=一六、五〇〇円(一六、六〇〇円は違算)の減収が生じた。

3 慰藉料 金一五万円

4 付添費 金五万円

入、通院期間五〇日間、原告加地の妻が付添つたので一日一、〇〇〇円により算定。

5 警察へ出頭の旅費、日当等 金七、八二一円

6 弁護士費用 金三万円

原告山之内関係

1 休業損 金三〇、九三二円

原告山之内は昭和四三年一〇月一四日から同月二一日まで入院、その後同年一一月九日まで通院して治療をうけた。

職業、長距離輸送トラツク運転助手

休業期間、一九日間

平均日収、一、六二八円

一六二八円×一九=三〇、九三二円

2 減収損 金九、〇〇〇円

原告加地と同様、治療終了後一五日間の残業、夜間手当日額六〇〇円をうけることができなかつた。

六〇〇×一五=九、〇〇〇円

3 慰藉料 金五五、〇〇〇円

4 警察へ出頭の旅費、日当等 金六、五二七円

5 弁護士費用 金二万円

(四)  損益相殺

原告加地は被告会社から休業損として金七万円

原告山之内は、同様金三万円、

を各受領したので前記損害額から控除した。

(五)  よつて被告らに対し、原告らは第一の一記載の金員および遅延損害金の支払を求める。

二、被告ら

(一)  請求原因に対する認否

本件事故の発生は、日時、場所、被告向井運転の事故車が北進中の原告車に追突したことは認めるが、受傷、物損は不知、その余の態様は否認。

帰責事由1否認。

同2被告会社が事故車を所有し、その運行供用者であることは認めるが、その余否認。

損害、否認。

損益相殺、認める。

(二)  本件事故原因は、原告加地が原告車の速度を突然落したため被告向井が原告車のストツプ・ランプに気づき直ちに制動をかけたが及ばず追突したもので、不可抗力によるものである。そうでないとしても原告加地の過失は大きい。

第三、証拠〔略〕

理由

一、本件事故の発生

原告ら主張の日時、場所において北進中の被告向井運転の事故車が原告車に追突したことは当事者間に争いがない。

〔証拠略〕によると、原告車運転の原告加地および同乗者の原告山之内が、外傷性頸部症候群等の傷害をうけたこと、〔証拠略〕によると原告車が右追突により破損したことが、それぞれ認められる。

二、被告向井の責任

〔証拠略〕によると、原告車は先行車に続き現場の道路を時速約四〇キロメートルで進行していて、先行車がモーテルに入る様子で減速したので、原告車も減速したところへ事故車が追突し、同車の左前部ラジエター部分も破損したことが認められる。前掲証拠中右認定に反する点は信用できず、他に右認定を左右しうる証拠はない。

先行する車両に追従して走行する車両の運転者は、先行車が故意に急停車するなどの場合は別として、減速ないしは急停車してもこれに対処して追突を避けうるよう前方の車両の動静に注意し、適当な車間距離を保持する義務があるところ、右事実によると被告向井は、原告車が減速したのに対し、これと追突を避けえなかつたのは、前方注視を怠り、車間距離が適当でなかつた両者またはいずれかの過失があるものと推認され、不可抗力とは到底いえない。

従つて被告向井に過失責任があるものといわねばならない。

三、被告会社の責任

被告会社は事故車を所有し、その運行供用者であること自認するところであり、〔証拠略〕によると、被告向井は被告会社の従業員であり、事故当時被告会社の業務のため事故車を運転していたことが認められる。従つて被告会社は人身損害につき自賠法三条により、物損につき民法七一五条により後記原告らに生じた損害を賠償する責任がある。

四、損害

原告会社関係

1  原告車に生じた損害 金四五万円

原告会社は原告車を修理せず、新車買替による差額を損害として算出している。そこで〔証拠略〕によると、原告車は本件事故によりフレームが五ないし六度の曲りを生じているが、その程度では修理したうえで十分使用に耐え、新車購入の必要がないこと、修理費として金二三九、一〇〇円を要すること、原告車は昭和四三年七月一八日登録となつているが、事故前の走行距離三、九一〇キロメートル、一〇日程しか使用していない新車同様の車両であること、この車の新車価格二八五万円であるが、登録によりすでに二三五万円程度に価格落となり、一方修理してから転売すれば、事故による評価落も含くめて一九〇万円程度か、それより多少低くなることがそれぞれ認められる。

右認定に反する原告会社代表者本人尋問の結果の一部は、原告車のフレームが曲つた以上、危険率が高くなり新車の買替がやむをえない旨を述べるのであるが、危ぐとしては当然であるも、前記原告車を販売した日産ジーゼル株式会社の工場長である証人小林、自動車の鑑定人である証人岡田が一致して前記のとおり修理して使用可能であると述べているので、買替による損害を認めることはできない。そこで右認定事実から修理費、事故による原告車の評価落を考慮すると、二三五万円から一九〇万円を差し引いた四五万円と認定するのが相当である。もつとも修理後の転売価格が一九〇万円より多少低額となることが予想されるも、事故前の価格二三五万円も一〇日程使用の減価を考慮していないので、その差はさ程開きがあるものと考えられないから、右のとおり認める。

2  休車損 金一〇二、〇〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告車の修理期間として運搬に要する日数を除き一五日程度を見れば十分であることが認められる。事故現場から修理工場へ、修理後の引渡を含くめて二日間の日数を加える必要があるので、一七日間は原告車を使用することができなかつたことになり、この期間他に遊休車がなければ休車損が生ずる。ところで、〔証拠略〕によると、原告会社では事故当時遊休車はなかつたこと、積トラツクであり、大阪と高岡間を輸送する場合、往復で三日間を要し、運賃収入は定額は七九、二〇〇円となるが、実際六二、〇〇〇円ないし六五、〇〇〇円であり、その純益は三割であること、定期便でないが概ね運賃日収二万円位であることが認められる。そうすると一日あたり約二万円の運賃収入で純益は六、〇〇〇円程度となる。そこで前記休車期間について一日六、〇〇〇円として算定すれば合計金一〇二、〇〇〇円である。

3  その他車両関係

シート、ロープ破損、電話代など甲三号証の請求書のみでこれを裏付ける証拠はなく、認めることができない。

4  事故直後のあと始末費 合計金五一、三一九円

原告車の代車代(大阪から傭車)金三五、〇〇〇円

積荷の積替費 金六、〇〇〇円

事故当時の原告会社係員巡遣費用金一〇、三一九円〔証拠略〕

5  示談交渉費

〔証拠略〕によると、原告会社が係員を被告会社へ行かせて示談交渉したことは認められるがそのための費用は通常生ずる損害とは認められない。事故発生後の示談交渉はよく行われるところであるが、その手段は多種多様であり、必要費用も千差万別である。示談はあくまで当事者間の契約により解決をはかるものであり、被害者、加害者のいずれの利益のためにもなされるのであるから、成立時にはその費用負担について双方間で定めるべきであり、定めがなければ民法五五八条、五五九条により平等に負担するものとすべきものもありうる。しかし示談が成立しなかつた場合の交渉費については、支出した者の負担に帰するほかはない。つまり不法行為の損害賠償請求を基礎とはしているが、これと別個に契約締結の交渉費用であるからである。この点損害賠償請求のため必然的な訴訟で弁護士費用が、通常生ずる損害とされることとは異る。

原告加地関係

1  休業損 金七六、〇八六円

原告加地は、前記受傷により昭和四三年一〇月一四日から同年一一月一五日まで三三日間豊中市の高尾医院に入院し、その後同月末日まで三回通院して治ゆし、別に後遺症も出なかつた。

職業、トラツク運転手

休業期間、昭和四三年一〇月一二日から同年一一月一五日までの間。

昭和四三年一月から九月まで平均月二五日弱稼働、原告加地の出勤日数は同年一〇月、二二日間、一一月は一日と賃金台帳に記載があり、台帳上の出勤日数は先月からの繰越がありうるので、入院期間中欠勤し、その間の出勤日数二七日間である。

平均月収

昭和四三年八月、二五日稼働、税控除額七一、七三〇円

同年九月二六日稼働、同七一、〇八〇円

同年一〇月二二日稼働、同六二、九一二円

二〇五、七二二円÷七三=二、八一八円

休業損

二、八一八円×二七=七六、〇八六円〔証拠略〕

2  減収損 認められない。〔証拠略〕

3  慰藉料 金一〇万円

前記受傷、治療経過等

4  付添費 認めない。

〔証拠略〕によると、診断書に付添を要す旨の記載はなく、完全看護の医院であることが認められ、この請求は認められない。

5  警察への出頭旅費、日当

本件事故による損害賠償として相当因果関係はない。

原告加地の出頭は刑事々件の処理上求められたもので、加害者に請求すべきいわれはないものである。

原告山之内関係

1  休業損 金一七、五八九円

原告山之内は前記受傷により昭和四三年一〇月一四日から同月二一日まで八日間高尾医院に入院、その後同年一一月一日までに一回通院し、後遺症もなく治ゆした。

職業、トラツク運転助手

休業期間、前記入、通院期間中、一一日間(稼働予定日数)

平均日収

昭和四三年八月、二六日稼働、税控除三八、六五二円

同年九月同同四二、〇〇〇円

同年一〇月二三日稼働同三九、三四二円

一一九、九九四円÷七五=一、五九九円

休業損

一、五九九円×一一=一七、五八九円〔証拠略〕

2  減収損 認めない。〔証拠略〕

3  慰藉料 金四万円

前記受傷、治療経過等

4  警察への出頭旅費等

前記説述したとおり認めない。

五、過失相殺

前記二に認定したとおり、本件は過失相殺すべき事案でない。

六、損益相殺

原告加地は金七万円を、原告山之内は金三万円を受領しているので、前記損害額から控除すると、

原告加地、 金一〇六、〇八六円

原告山之内、 金二七、五八九円

となる。

七、弁護士費用

原告会社 金八万円

原告加地 金二万円

原告山之内 金一万円

〔証拠略〕

八、結論

被告らは各自、原告会社に対し金六八三、三一九円、原告加地に対し金一二六、〇八六円、原告山之内に対し金三七、五八九円および、これらに対する昭和四四年一月一五日から右完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、原告らの各請求は右限度において正当として認容し、その余を失当として棄却する。

訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用する。

(裁判官 藤本清)

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